――第十三章――

人気のない草原のど真ん中を一行は進んでいく。
ホウジョル街に向かって。

ホウジョル街は、世界一、大量の情報を持つ。
小さなニュースさえ、完璧な情報を仕入れている。
そんな街ならば、きっと蓮弥達の求める情報さえあるはず。

「ホウジョル街はどんなところなのかな?」
ルエがふと疑問に思い、口にした。
「何?行った事ないんだ?」
これは良いネタになりそうだ、という顔でライフィルが聞く。
良いネタになりそうだということはライフィルの顔や声のトーンを聞けばすぐにわかる。
「わ、悪い・・・?」
それ以上は言われたくはないが、自分が振ってしまった話題。急に変える事もできず、そのまま続ける。
「まあ、ルエちゃんにもわかりやすく、そして・・・蓮弥の為にもわかりやすく説明してあげるわ!」
どうやら、いじくることよりも蓮弥に良いところを見せることにしたようだ。
「えーっと、それでは・・・」
そういって小さな手帳を取りだし、軽く咳払いをした。
「ホウジョル街っていうのは、世界一情報を扱っている街でとっても文化が発展している街なのよ」
人差し指だけをピンと伸ばしながら話をする。時折、まわしたり、振ったりしている。
「どれだけ小さなニュースでも、完璧な情報を持つぐらいで・・・凄いのよ!」
「凄い・・・んですか・・・!」
なぜかその説明に月夜が食いついていた。
「うん、とっても凄いのよ!」
「凄いんですね、凄いです!」
もはや凄いが何をあらわしているのか、誰にもわからない。
「でしょ!?凄いでしょう!?」
「はい、凄いです!凄すぎです!!」
和気藹々と『凄い』の会話を繰り返す。
「凄いことは良くわかったからさ、それで・・・?」
蓮弥が苦笑しながらも続きを求めた。
「うん?ああ、はいはい」
ようやく『凄い』という会話から抜け出せるようだった。
「でー・・・えーっと、他に・・・何か・・・」
そういって今度は考え出した。
「高い建物ばかりで機械だらけの街。誰もが常に無駄な時間を過ごそうとはしない。そして情報を求めて動きまわってる民。そんな場所だろうが」
ガイが付け加えた。
「あ、そうそう、そんなとこ!さっすが、ガイね!」
喜びを抱きつきとして表現をしたかったライフィルだが、ガイはそそそと離れて行っていた。
そんなライフィルをくすくすと笑いながら皆見ていた。
「でっかい建物は遠くからでも良く見えるな〜」
ソックはそう言いながら額の上に手を置き、目のところに影を作り、目を細めて遠くを見ていた。
街までそう遠くないところまできていたらしい。

そのまましばらくそこを目指して歩いていた。
走ればすぐに辿りつく距離まで来ると、ルエが蓮弥の手を引いて走り出そうとする。
「え?ルエ?」
引っ張られたことに驚いた。
「一番乗りしよう!」
笑顔で誘う。もちろん、蓮弥は断ることはなく同意し、走り出した。
「そうだな、行こう!」
その様子にライフィルはだんだん不機嫌な顔になってきていた。
「なーに恋人気取りなんかしちゃってるのかしらねえ・・・!!」
ぐっと拳を握る。皆の目には周りに炎があるようにも見えた。
「絶対、渡さないんだからねえ!!!」
既にかなりの所まで走っている二人の間目掛けて走り出した。

「ライフィルねえちゃん、早い・・・ね」
「ああ」
「俺らあの3人と別行動することになったりして・・・?」
「それもいいのではないか?」
「駄目ですよ・・・なんか心配ですもん」
ため息混じりに5人が一言ずつ吐いた。

「着いた〜」
息を切らしながらも着いた喜びを抑えずにはいられなかった。
「意外と距離あったな」
「うん、そうだね?」
少し、間が開いた。
「あ、ごめん・・・なさい!」
少し顔を赤めてルエは謝った。
「え?謝ることなんて・・・」
何を謝られているのか全くわからなかった。思い当たる節がない。
「手・・・引っ張って・・・その」
恋人でないのに恋人のような振るまいをしてしまったことに、罪を感じていたらしい。
「あ、いや、全然構わないよ!楽しかったから」
とはいいつつも、なんだか雰囲気にもやられ、共に顔を赤くしてしまう。

どおんっっ!!!

鈍い音がした。それと同時に何かが倒れた。
何かそれは・・・。
「だ、大丈夫か、ルエ!?」
とんでもない速さでライフィルがルエに突っ込み、ルエがこれまた物凄い速さで倒れたのだ。
「大丈夫・・・・・・」
痛みに顔をゆがませながらも、大丈夫と返事をした。
「置いてくなんて・・・酷いわよ」
がっしりと蓮弥の手を握りながらもライフィルが泣く真似をする。
「わ、悪かったよ・・・」
泣き真似とわかっているが、こうされると謝らねばと思うのが性。
「ただ、ルエに謝ってくれないかい?」
「ええ、わかったわ」
素直に返事をして、くるりとライフィルはルエの方へ向かった。
こそこそと蓮弥に聞こえない程度に何かを言っていた。
そして最後に「ごめんなさい?」と言うのは聞こえた。

「にいちゃーん!」
ライラックの元気な声が聞こえた。
ようやくあとの5人が来たようだ。
「遅い!!」
ライフィルが吠える。
「馬鹿」
一言やや大きな声でセスラが言った。
「なんですって、ガキィ!?」
「では、阿呆?」
「なんですぅってえええええ!!!?」
爆発寸前というところまで来ていた。
「まあまあ・・・遅かったのは悪かったよ、だからそんなに怒らないで、な?」
にこにことソックが間に入って和解をさせた。
「じゃあ、早速ホウジョル街を回りましょう?」
貴族のような振る舞いでソックを散歩へと半ば無理矢理つれていく。
「あ、コラ!!」
急いで二人を追おうとした。
が・・・。
「な、なんて速さなのだ・・・」
邪魔をされたくないのか、とんでもない速さで街中へと消えていった。
「あのねえちゃんの速さには勝てないよ、誰も」
後ろからライラックがやはりため息混じりで呟いた。
「し、しかし・・・!!」
ソックを取られたくない気持ちは多いにあった。

残るは6人となった。
「役割分担でもしましょうか?」
月夜が提案した。
「そうだな・・・それで、時間と待ち合わせる場所を決めよう」
ガイも賛成し、更に提案を加える。
「えーっと、それじゃ・・・役割は?」
ルエが考える。
「宿探しに、情報集めは必ずで・・・あ、そうだ食料を買いにいく人も大切だね?」
役割を蓮弥が口にした。
「食料は私が担当するわ」
「えと、じゃあ俺は情報集めに回ろうかな?」
ルエと蓮弥は自分の役割を決めた。
「では、宿は私が探しましょう」
「俺も情報集めに回るぜ」
今度は月夜とガイが役割分担を終える。
「じゃ、僕は宿探しで!」
ライラックも決定をした。
「荷物持ってもらうことになるかも知れないけど、私と一緒に来てもらってもいいかな?」
身を少し屈めてルエはセスラに頼んでみる。
「別に・・・いいけど」
どうせソックはいない。そう思ったのかすんなりと了解をした。

街の中心にある大きな時計台のしたに集まることにした。
時間は昼過ぎ。昼の3時にしようと決めた。


一方、ライフィルとソックはというと。
「ついつい走ってきちゃったけど、皆まだ入り口にいるかな〜?」
ライフィルが考えこむ。
「いくらなんでもさっきの展開は無理矢理過ぎじゃなかったか?」
腕を引っ張られ猛スピードで走り、半分宙に浮いていたような気がしていたソックがやっと落ちついて歩くライフィルに言った。
「だってー・・・」
落ちこんだような素振りを少しだけすると、今度はびしっと立ち気合の入った声で言う。
「蓮弥あのままじゃ取られちゃうし・・・!!何よりこんな可愛いのに男と浮いた話がないあたし!!」
「だからって俺をここまで引っ張ってくることはないかと・・・」
とりあえずライフィルの心が落ち着くように会話を試みようとソックはその後奮闘した。


-宿探しの2人-
機械ばかりの街の中を進んでいた。
どの人も暇を作ろうとはせず、せかせかと動き回っていた。
暇にしていたり、遊んでいるのは無邪気な子供達だけ。
「なーんか、せかせか働いちゃってさ、つまらない街だよね」
ライラックはこういう雰囲気が苦手なのか、周りを見てはつまらなさそうな目線を送っていた。
「仕方ないですよ、それがここの人達なんですから。それぞれの街や国には文化があるものですよ」
月夜もまたライラックから見れば異文化の人。その所為か、この街の人たちにフォローを入れた。
「でも、息抜きしなきゃ疲れて倒れちゃうよ」
「ライラックの意見は尤もです。これだけこうして働いているところを見ると外から見た私達は心配になってしまいます」
月夜も心配していたんだ、とライラックは胸の中で呟いた。
「しかし、それは外から見た者の言うことであって、本人の方々はどうかはわかりません」
「それは確かにそうだけど」
ライラックには自分の見ていることだけしか理解できないでいる。
「きっと、ライラックの見ていないところで皆さんちゃんと休んでますよ」
にこりと優しく微笑みかけた。
なんとなく、ライラックにも理解できたような気はした。
「料理の美味しい宿屋さんがいいですね!わくわくです〜」
料理に期待を寄せる月夜。それも、とても楽しそうに。
その様子を見るには、さっきの月夜は違う人なのでは?と心に小さな疑問を持ってしまうライラックなのだった。

-情報集めの2人-
「やっぱり、ここは二手に分かれた方がいいかい?」
広くはない街だが、情報量は計り知れない。
それならば、一緒に聞くよりも二手に分かれたほうがきっと多く情報を仕入れられるはず。
「ああ、そうするか・・・」
ガイもそれには同意し、すぐにわかれた。
「また後で」

街には「情報屋」と書かれている店が何件もあった。
だが、「〜屋」なのだから少なからずお金は取るだろう。
通行人に聞こうと思って見渡してみるが、話しかけられる雰囲気ではない。
見知らぬ土地での単独行動。やはり慣れない蓮弥。
きっと、こんな事している間にもガイは沢山の情報を仕入れるんだろうな・・・。
心の中でぼんやりと思った。そしてそれと同時に、もっと自分も役に立たねばと言う思いも大きくなる。
そんな時、一人の女性に声をかけられた。
「冒険者さんね?それも、素人と見たわ!」
振りかえるとびしっと決めたスーツで身を包み、横に長い逆三角の赤いフレームの眼鏡をかけた女性が立っていた。
「だ、誰ですか・・・?」
いきなりそんなことを言われて驚かない人間はいない。
「私はコーフィ・イージン。世界一の情報を持っているのよ!」
いかにも高飛車である。
「ええっと、そんな人がどうして?」
蓮弥が恐る恐る聞くと、コーフィの名乗った女性は1つ咳払いをした。
「あなたの手助けでもしてあげようと思ったのよ。いらないなら帰るけど」
「え?いや、い、いります!!」
丁度どこで情報を手に入れようか迷っていたところだったのだから、丁度良い。
2人は近くの喫茶店で話を聞くことにした。

-買出しの2人-
旅に必要なものを買うため、各店を転々としていた。
食料だけではない。衣服も買う。そのほかにも、色々と買う。
「なんだか、凄い量になっちゃったね」
大きな紙袋にぱんぱんと物がぎっしりと入っている。そんな袋を2袋持ちながらルエが言った。

返事はない。

セスラはむすっとした相変わらずの顔をしてただ前を見て歩いていた。
「セスラちゃんは・・・何か好きな食べ物とかある?」
「・・・」
やはり黙ったままだった。
こうして買い物に付き合ってくれたとはいえ、それだけでは満足はできない。話してみなきゃ、彼女の何も知ることが出来ない。
「阿呆。馬鹿・・・愚か者」
突然セスラが言う。
「・・・え!?」
自分に言われたのかと驚いた。
何か自分は悪いことをしたかと考えてしまう。
「そういうこと言っても、あいつは怒らなかった」
「・・・え?」
どうやら自分ではないらしい。
そして、とても意味深な言葉を言う。
「なのに、あいつは・・・ソックは皆の怒らない場面で怒り出した」
全く状況がつかめない。
だが、彼女がこうして話してきてくれてるのは珍しい。相槌を打てずにいるが、しっかり聞こうと思う。
「でも、それは正しい行為。何故ならば・・・私が間違ったことを言っても私の地位の高さから、誰もそれを叱ることが出来なかった」
どの国にも属さないという王国のプライドを持つ村だ。村長の娘は王国の娘と同じ扱い。名前が違っても、変わらないことらしい。
なら、村の民達は地位の高いものの過ちを正すことは出来ない。
「セスラちゃん・・・わざと間違った意見を言ったんでしょ・・・?」
村の民を試した、ルエはそう思った。こんな風に愛想があまりないが、良い子なんだから。
「違う。本当に、間違ったんだ。あいつに言われて初めて気がついた」
そのあとは黙りこんでしまった。それ以上は話したくないのだろう。ここまで話してくれただけでも嬉しかった。
けど、自分の中で良い子だと思いこんでいたのが少し恥かしくなった。
わかってるつもりでいた。
たった少ししかまだ一緒にいなくて、しかもまだ全然話せていない。
わからなくて当然・・・だけど、自分だけでもソック以外で彼女を理解しようと焦りすぎていた。
それに気がつくと、やはり恥かしかった。


太陽は真南に昇りきり西へと下ろうとしていた。

「お腹空いたな・・・どっかでとりあえず食べないか?」
街中をとりあえず一通り回りきっていた。
詳しくは、見ていないが。
「そうね〜・・・お腹空いたし、歩き疲れたし」
そういうと、ライフィルはキョロキョロと店を探し始めた。
「近くにはあそこだけみたいね」
案外距離のある場所に一件のレストランがあった。
「疲れた・・・」
そう言ってその場に座り込み、ソックを見る。
「な、何・・・?」
ライフィルの顔にやや怯えつつ、聞く。
「あそこまで・・・つれてって!」
子供じゃあるまいし・・・。
「はい・・・?」
ヘンテコなわがままだな〜と思いつつも・・・とりあえず。


引っ張っていくことにした。


ずるずるとしゃがんだままの状態で引きずられるライフィル。
大きな荷物を持っていくように引きずるソック。
「蓮弥ならきっと、お姫様抱っことかしてくれるんだろうな〜」
「たぶん、しないとは思うけどな〜」


太陽は更に傾き、約束の時刻になろうとしていた。

-時計台の前-
「どうやら一番乗りのようですね」
「そうみたいだね」
どうやら宿を決めた月夜とライラックが一番乗りで着いたらしい。
時計台の針はまだ約束の時間をさしていない。
宿はすんなりと決まった。そのあとは喫茶店でゆっくりと時間を過ごしていた。

青空の雲がゆっくりと風に吹かれて流れていく。

「リーブねえちゃん・・・無事でいるかな・・・」
ライラックが小さく呟いた。
「リーブさん、ですか?」
月夜が聞いてきた。
「うん、僕のねえちゃんみたいな存在で・・・すごく優しくて、すごく意志が強くて・・・美人で・・・すごく良い人なんだ」
「早くまた、お話できるといいですね」
そんな風に静かに話をしていると。

「ごめん、手伝ってくれるー!?」
少し遠くから声が聞こえてきた。
「あ、ルエねえちゃんだ!」
そう言って2人は駆け出した。
「大丈夫ですか?」
「僕も持つよ」
月夜とライラックが2袋ずつ持っていた2人から1袋ずつ受け取った。
時計台の針は約束の時間を少しばかり過ぎていた。
「それにしても、いっぱい買ったね」
その量にライラックは驚いた。
「ええ、本当ですよ。しかも、すごく重いです」
これを2袋ずつ持っていたことに驚きを隠せない。
時計台の下に円形のベンチが並んでいた。そこに荷物に置き、休むことにしようと歩き出す。
「あっ」
その瞬間、セスラがバランスを崩し、倒れかけた。

だが、その体は地面には付かなかった。
「・・・!」
セスラの後ろにソックがいたのだ。さらにその後ろにはライフィルが立っている。
「大丈夫か?」
そう言ってセスラの持っていた荷物を持つ。
「あ・・・ありがとう」
驚きを隠せないセスラではあったがその顔は赤くなっていた。

こうして6人が集まった。
残すところはあと2人。ガイと蓮弥である。

またしばらくすると、ガイの姿が見えた。
「あれ?蓮弥にいちゃんは?」
2人で行ったと思っていたので、一人で来て驚いた。
「二手に分かれて情報を集めた方が効率が良いと思ってな」
「そういうことだったんですか」
そしてガイを含め、7人がベンチに座り蓮弥の帰りを待った。

約束の時間から、1時間が経とうとしていた。
そんな時。

「みんな!聞いてくれ!大変なんだ!!」
大声で叫びながら蓮弥が急いでやってきた。
なにか、とても大変な情報を聞き出したのか、それとも・・・?



=back= / =top= / =next=






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送