――第十二章――

「たぁっ!」
短剣が鋭くモンスターを捕らえた。
ぐしゅっ・・・・。
なんとも言えぬこの皮膚を切った感じが不快感を与える。
それでも、また次の一撃を食らわす。
返り血を浴びるのも嫌だったが、強くなる為には仕方がない。それが、少女――ルエの選んだ武器。そして道。
なにかを傷付ける為にはそれなりの傷を、心に刻む。そんな気がしていた。
今までは然程何かを傷付けることはしてこなかった。いや出来なかった。でも、今はそれをするわけにはいかない。

私の大事な人は、この傷以上のことをこの世界の為、私たちの為にしてくれていた。それなのに、これ以上傷を負おうとしてくれてる。
だから、私は・・・私も同じように傷を負う。

ルエは心にそう決めていた。
蓮弥の修行が終るまでの間の今、彼女は進んで強くなる為に森に来ていた。
正確には、彼女達だが。

蓮弥が修行に出てから12日が経っていた。
毎日のように森へ出かけてはレベル上げに励む。

「あ、ソック危ない!」
ソックの背後から突然モンスターが現れその背後へと攻撃を食らわせようとしていた。
「うわわっ」
突然の事に驚き防御の体制が取れなかった。
あと少しでモンスターの牙がソックに当たるといった時。
びゅっっ!!!
ぐしゅっ
矢が飛んできて敵の目を射貫く。
悲痛の叫び。そのまま横へと倒れこんだ。
「あ、今チャンス♪」
気楽に言うとソックはパンチと蹴りを食らわせた。
鈍い音がした。それはソックにも響いている。

闘いを一段落させ、村へと戻る。
宿で一息入れることにした。
「うぅーっ・・・っはあぁ〜・・・」
伸びと深く息を出して闘いに疲れた体をスッキリさせた。
「ねーねー、女神って誰なの?」
恋人ではない、そうは言っているがこうもピンチになると矢が飛んでくると気になる。
「そんなに気になることか、ライフィル?」
ちょっとだらっとさせながら、ソックが聞き返す。
「気になるわよ。だって、どこにいるかもわからないし・・・なんか恐くない?」
ソックにはわかっているのかもしれないが、こちらとしては全くわからない・・・いわば未確認生物といってもいいほどだ。
ソックがピンチになると飛んでくる。それと、女神というくらいなのだから女なのであろう。わかっているのはたったふたつ。
やはりこちらとしては気味が悪いというものがある。
「何も知らなきゃ恐い、よなー・・・確かに」
そういうとため息をついた。
「困った子が俺のあと付いて来ちゃってるんだよ」

その子は昔滞在した村の村長の娘。
何かと俺にくっついてきたんだけど・・・素直じゃないんだよなー。
まあ、そこらへんつつくと反応が面白くて可愛くて。まあ、だからつついちゃんだけど。
ただ、その子がついてきたのって・・・俺が村を出て1ヶ月くらい経ってからなんだよなー。なんで俺を見つけること出来たんだろ?
って、そんなこといいか。

「まあ、とりあえず、俺を追ってついて来てる女の子、だな」
すっぱりと話し終わる。
「・・・その子の名前は?」
名前を出さないので気になった。
「ん?ああ、また名前忘れてたか、俺」
そういって苦笑した。
どうやら名前に関して良く忘れるらしい。
「セスラ。セスラ・マリオール」
その名前にガイが驚いた。
「マリオール・・・?マリオールといえば、古代王国の一家の名前じゃないねえか!?」
「古代ってほどじゃないけどね、結構最近まで在った国だし」
その会話に残りの4人が驚いていた。
「おお、王国!?」
王国と言えば、知らなくとも驚く。それが昔の話であっても王国というのは存在が大きい。
「でも、王国の一家が何故村に?」
ルエの質問にソックはしばし言うのを躊躇っているようだった。
「俺が言って良いことかわからないけど、ここだけの話しだぜ?」
そして小さな声で。
「生き残った人達が小さい村をつくって静かに暮らしてるんだ」
60年前の戦争で国は戦いに敗れた。
大勢の犠牲者を出しての終戦だった。自分達の国をなくした者たちは新しい土地でどの国にも属さず、小さな村を作って暮らしている。
「でも、そんな子がどうやって旅に出たんでしょう・・・?」
月夜が疑問をだした。
村長の娘なのだから、きっと村から出てはいけないといわれてるに違いない。
「さあ?彼女にはあんまり会ってないから聞けてないんだよな」
本人もわけを知らないらしい。
だが、様子を見る限り嫌がっていることは無さそうだった。
逆に今までを見ているととても心配そうだった。
「セスラちゃんは、あなたに会いたくないのかな?」
今度はルエの疑問。
「ううーん、さあ?でも、素直じゃないから、自分を偽ってるんだろうな」
(絶対この人セスラちゃんの気持ちとか全部わかってるんだろうなー・・・)
ソックの発言でルエはそう思った。
「でもさ、でもさ!!」
ライラックが突然楽しそうに話し出した。
「かなりの距離からああやってきちんと命中させるんだから、すごい人なんだろうね♪」
ライラックはセスラに期待しているらしい。どうやら、チャンスがあればセスラを仲間にしたいようだ。
「すごくない。すごくちゃ、いけないんだ、彼女は」
ソックがどこか悲しげに言うと、ライラックもいけないことを言ったような気がして静かになった。それに伴い、皆も静かにしてしまう。
それにソックは逸早く気付き、別の話しを持ち出してきた。


-夜-
どこにも光は灯っていない。そんな時間に、宿に向かう一人の影。
宿屋に向かう人物――蓮弥はこっそりと、みんなの所へ帰って驚かせようとしていた。
宿屋の前にたどり着いた時、この暗がりの中に自分以外にも影が一人。
小柄の人物らしい・・・。
蓮弥は勇気を出してその人物へと声をかけてみた。
「そこで、何してるんだい?」
それにその人物は相当驚いたらしく、体がびくりと動くのが見えた。見えたと思うと、その人物は走り出していた。
蓮弥はその人物が気になりはしたが、もう追うことも出来ないので宿に行くことにした。
宿のドアを開け、客室の方へ向かった。

が。

部屋がわからない。 「そういえば、部屋聞いてない」
自分のマヌケさに苦笑して、どうするかを考えていた。
宿の主人を起こして聞くのは迷惑だろうし、だからといって全ての部屋を見るわけにはいかない。
このまま朝まで・・・?とは思ったがそうするのもまた馬鹿らしい。
数十分考えていた。
どうもこの行動もマヌケだとは思った。

「右から2番目」

背後から声がした、驚いて振りかえるとさっきの小柄な人物がたっていた。
さっきより近いうえに、声で女の子だとわかった。
「なんで・・・、わかるのかな?」
さっきは逃げた人物。そんな人物が仲間の居場所をわかるような気がしない。
そして、何故自分がその仲間達の部屋を探しているのかも、何故わかったのか。
「一番右の部屋に居た人は昨日この村を出た。右から三番目は・・・その・・・」
何故か女の子はそこで詰まった。なんだかそれを聞くのは悪いと思って、蓮弥は何かを言おうとは思ったが、どういえば良いのかわからなかった。
「し、知り合いが・・・いる」
彼女は恥かしそうにそう言って4番目からは誰もいないことを告げた。
「ああ、なんだ・・・そういう理由か」
それならば自分がどこを探していたのかわかる。なんとも単純なこと。それにどこか警戒をしていた自分が少し馬鹿らしく思えた。
彼女は蓮弥に部屋を教えるとくるりと回って宿を出ようとしていた。
「あ、まって!」
お礼を言ってない。
それに、彼女のことが少し気になった。
彼女はぴたりと足をとめて振りかえる。
「あの、ありがとう」
礼をいうと少女はくるりと回ってまた歩を進めた。
「それと、君はこの宿にいないのか?」
この近くで泊まれるのはここだけしかない。
なら、少女はこの村の人かもしれない。そうとは思ったが・・・。
「・・・私は・・・」
一拍あいた。
「私は、野宿だが、悪いか?」
少女が何故野宿をしなければならないのか、蓮弥には不思議だった。
お金がないのか?でも、それでは旅が続けられないのでは・・・?
「あ、じゃあ俺がいる部屋に来ないかい?」
女の子とかもいるし、そう加えた。
だが、彼女は一言、いい・・・と言った。それは拒否の意味で。
「野宿なんて、寒いだろ?」
少女のことを考えるとこのまま行かせるわけには行かないような気がした。
蓮弥は強引だと思いつつも部屋に誘導した。
そしてドアに手をかけ、ドアノブをひねり、あける。

ぱぱぱーん!!!

光と共に軽い爆発音の連続。
それは・・・。
「蓮弥、おかえり!!」
ルエが蓮弥の間近にまで来てにっこりと笑顔で迎えた。
そう、クラッカーの音。
「え?え?ええー!?」 自分が驚かそうと思っていたのに、自分が驚かされてしまった。
「なんで知ってるんだ!?」
驚きの声で蓮弥はそう問う。
すると、くすくすとルエが笑った。
「ローズさんから先に連絡を頂いてました」
にこりと月夜が説明した。
「で、蓮弥には秘密で歓迎パーティーの用意をしてたってわけよ」
楽しそうに笑いながらライフィルが言った。
「なんだよー・・・せっかくこっちが驚かそうと思ってたのに」
蓮弥が残念そうにいいつつ、どこか楽しげだった。
ふと、自分の後方にいる人物のことを思い出して。少し横へ寄って、少女を前に出した。
「野宿するって言うから連れて来ちゃったんだけど・・・」
みんながその少女を見る。
少女はみんなの顔を見るなり部屋を出ようと一歩を踏み出した。
そのままいくつもりではあったのだが、彼女はその次の一歩を踏み出せない。
「・・・誰?」
少女を掴んだ青年を見るなり、蓮弥が一人呟いた。
「待った」
青年が少女を止めた。
青年は少女を無理矢理自分の方へと向かせて、目線を少女より低くするためしゃがんだ。
「逃げることないだろ?」
少女は黙ったまま、俯く。
青年は少し怒った顔で少女を見ていた。
蓮弥はまったく状況がつかめず、近くに居るルエに聞くことにした。
「この人、誰なんだ?」
すると、ルエは「あ!」と思い出した様子で青年の紹介をする。
「この人はソック。一緒に旅をすることになったの」
「そう・・・なのかって俺が居ない間に」
居ない間に仲間が増えているのはショックなことであった。
「あ、ごめんね?でも・・・この人がなりたいっていうから」
詳しいことは後で話すね?と加える。
「わかった・・・けど・・・」
この状況はいったい・・・??
蓮弥のもう一つの疑問であったが、聞けずにいた。
「近くにいればいいじゃないか、もう俺一人じゃないし」
にっこりとソックは少女に笑顔をして説得している。
蓮弥はとても疑問には思っていたが、みんなもはっきりわかっている様子ではないことに気が付いた。
ソックはすっと立ち上がると、みんなの方を向いた。
「この子も、いいかな?」
少女が同意をしたようには見えなかったが、二人の中では話は解決したらしい。
皆は少し困惑していた。構わないが、その少女が誰なのかをはっきりさせて欲しいからだ。
「癖、抜けてないのだな」
少女がぼそりというと、ソックが慌てて、苦笑した。
「あ、ごめん。また名前」
軽く頭を下げる。
「この子が、セスラ」
少女、セスラはなんだか嬉しそうにした。皆には聞こえない程度の声だったが、蓮弥には少し聞こえていて、「覚えていてくれたんだ」そういったように聞こえた。
「あなたがセスラちゃんか・・・私はルエ。よろしくね」
にこりと笑って握手を求めた。
「・・・ぅ・・・うむ」
恐る恐る手を伸ばしてきて握手をした。
照れ屋らしい。
そのあとも、皆が自己紹介をした。
蓮弥の歓迎パーティは名を変え、蓮弥歓迎とセスラ仲間入りパーティーとなった。

蓮弥の復活とセスラの仲間入りで、新しい気持ちでの旅立ちを迎えることができそうだ。
誰もがそう思った。
そして、朝を迎えるのであった。



朝。
蓮弥たちはそれぞれ旅の支度をしていた。
「あれ?セスラ見なかったか?」
蓮弥たちの部屋にソックが入ってきてそう聞く。
「え?知らないよ?」
おっかしいなー・・・、そう言いながらソックは蓮弥たちの部屋を出ていった。
「まさか・・・どっかいっちゃったのかな?」
ルエが心配そうに言う。
「大丈夫よ、たぶん!」
たぶんが付いてるわりには自信満々に言うライフィルだった。
ここはソックにまかせて、と蓮弥たちの方は旅支度の続きを始める。



蓮弥たちは支度を終え、ソックが戻る前にローズにお礼を言いに行き、宿へと戻った。
しかし、まだソックは帰ってきていないようで荷物が部屋に置きっぱなしになっていた。
待つこと数十分。
セスラを連れたソックの姿が見えた。
そして、ソックはこちらに気が付くと軽く走ってきた。
「悪い、悪い」
すぐ持ってくる!とも付けたし、部屋に荷物を取りにいった。
「どこいってたのよー、まーったく、お子様ねぇ」
ライフィルがため息混じりにそういうと。
「うるさい、こちらにはこちらの事情があるのだ」
ふいっとそっぽを向く。
「こ・・・こんのがきぃ・・・」
相当怒っていて、今にも飛びかかりそうだったが蓮弥がおさえていた。
ルエがセスラに理由を聞こうと目線を合わせると、セスラはむっとした顔をしていた。
その顔にルエは少し駄目かなと思いつつも理由を聞くことにした。
「どこいってたのかな、セスラちゃん?」
優しく聞けば答えてくれるのではないかと期待はしたが・・・。
「関係ない」
言う気は無さそうだった。
ルエもひとつため息をつき、蓮弥に「駄目みたい」といった。
刹那。
「あー、聞かないでやってくれないか?」
荷物をもったソックが帰ってきた。
理由はわからないが聞かないで欲しいと言われては聞くわけにもいかず、ルエたちは聞かないことにした。



とりあえず、情報収集にもってこいの街があると聞き、そこに行くことにした。
街の名前は「ホウジョル」街。
ホウジョル街に向けて、今蓮弥達はこの村を旅立つ。



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