――第十章――

昨晩決定した目的地へ歩を進める蓮弥達。
もう歩き始めて1時間は経ったのではないだろうか・・・。
「なあ、僕疲れたよ〜」
「あたしもあたしもー!」
ライラックとライフィルが愚痴る。
二人はその場に座りこみ、休憩を提案した。
「疲れたって・・・まだ1時間しか歩いてませんよ?」
月夜は当たり前のような口ぶりで言う。
「[しか]じゃなくて[も]だよ」
ライフィルが力無しにツッコミをいれる。
だらしないですよーと月夜が二人に軽い説教をした。
なんだかんだといいつつも、しぶしぶ二人は立ち上がり先を行くことにした。

さらに歩くこと1時間。
「こ、今度こそ・・・休憩しようよ・・・」
今度は倒れこんで休憩を要求した。
「だ、大丈夫か、ライフィル・・・」
すこし呆気を取られながらも連弥はライフィルに言葉をかけた。
さすがに倒れこまれては休憩するわけにはいかない。
「朝から歩いてるし・・・休憩しましょう!」
ルエがそういって場を仕切った。

30分程休憩した後、ライフィルはすっと立ち上がった。
「・・・どうかしたの?」
その様子にルエが問う。
「・・・あれ・・・・」
遠くのほうを指さした。
その指の先には、うっすらとだが村のようなものがあった。
「ねね、村まで近いんじゃない!!?」
ライフィルが目を輝かせて言った。
しかし、その期待は月夜の言葉ですぐになくなる。
「あ、あれは実際の村ではありません」
微笑しながら言う。
「え?」
気の抜けた声。
「どどど、どういうこと!!!?」
驚愕の声をあげた。
そんなライフィルに月夜はあっさりと答える。
「襲われやすい村なので囮のようなものです」
にっこりと笑顔で答えた。
あっさりとした答えにライフィルは言葉が出ず、そのまま一言も話さなかった。唖然、というものか。
ライフィルのわがままもありつつも一同は前へと進むことにした。

それから歩くこと2時間・・・やっと蓮弥達はローズがいる村へとやってきた。
そこは、家が20件ほどの小さな村だった。
一際目立つ、変わった家があった。そここそがローズのすむ家である。
「あ、あそこですね!早速お会いしにいきましょう♪」
何故かとても楽しそうな月夜。
「なんかものすごーく・・・楽しそうね?」
嫌な予感がしつつも、ルエはそういう言い方でしか言えなかった。
それになんだかとても元気にはい、と返事をする。
だんだん不安が募ってきた。

コンコン。

ガチャ。

ノックしてからしばらくするとドアが開き、一人の老婆――――ローズが姿を見せた。
「なんのようじゃ」
冷たく言い放つ。
ええと・・・、そう少しためらい気味にワケを話した。
すると。
「強くなりたいとな?」
「はい・・・!」
しばしローズは考え一言いう。
「修行を、してやろう」
意外にも簡単にOKをだしてくれたローズ。
そんな様子に一同は安堵の顔をした。
「じゃが、死んでもしらんし、能力が上がらなかったとしても、わしは知らんぞ?」
静寂がひとつ。
誰もが心配だった。
ローズというこの老婆がどんなことをして能力を引き出すのか、誰一人として知っているものがいない。
ましてや、死ぬ気で受けた修行で成果が出なかったら。
もし、成果が出たとしても、体がボロボロだったら?
最悪の事態まで予想する。
しかし、ただひとり・・・そんなことを考えずにいるものがいた。
それは、その修行を受ける本人である、蓮弥。
蓮弥は、みんなの心配そうな顔を見渡すと、静かに口を開いた。
「死んじゃったとしても、力が出なかったとしも、それが結果なら仕方ないさ」
だったら・・・・。
「やるとこまでやってみるしかないだろ?」
俺は今のままでいる方がずっと嫌だ。
この仲間の為なら、命に代えてもいい。
きっと、みんなも逆の事を思ってるに違いないから。
それに、絶対にここで強くなる自信がある。
だって俺は、『セインを着た者』なんだからさ。
「皆俺を信じてないのかい?」
自信のある笑顔でそういう。しかし、誰も顔を変えない。
やっぱり、仲間だから。死ぬなんて嫌だから。
けど、このままでいいことなんてない。
誰もがわかっていた。
あの時、蓮弥は一度死んだようなもの。
ガイの魔術で蓮弥は強くなったわけじゃない。
ただ回復をしただけ。
なら、同じことが起きることは確実に考えられる。
だったら、どうする?
こうして皆が考えている間も、蓮弥は笑顔だった。それはきっと、皆が同意の答えを出してくれると信じているから。
「・・・私は、蓮弥に危険な目にあって欲しくない。けど、いなくなるのも嫌。このまま皆に守られつづけていく蓮弥もいや」
ゆっくりとルエが語りだした。
「ここで死んじゃうなんて・・・きっと蓮弥はないと思う」
どこから湧いて来る自信・・・?
「みんなの期待を、裏切るようなあなたじゃないから」
そう、蓮弥はいつだってそうだった・・・。
「だから、私はこの修行をしてもいいと思うの」
信じる。信じなきゃ、何も始まらない。
それを合図といわんばかりに、皆が修行を認めた。
「いって来なよ、蓮弥にいちゃん!僕待ってる!」
「もっとかっこ良くなって戻ってきてね♪」
「己に負けたら終りです!己に負けなければ、勝ちます!頑張ってください!」
「自分の思う通りにいけ」
みんなは蓮弥を、修行へと送り出した。

「じゃあ、こいつは借りとくよ」
「いってきます!必ず戻ってくるから、待っていてくれ」
そういってローズと蓮弥は皆の前から立ち去る。
仲間達は微笑を浮かべながら静かに見送った。
ただ一言、いってらっしゃいをいって。


「いっちゃったね」
切り出したのはライフィル。
「うん・・・」
それに答えたのはルエ。
「もっとかっこ良くなって帰ってきたら、あたし何してあげよっかなー♪」
ライフィルはにやにやとしながらルエを茶化した。
「な、何してあげるんですか!!?」
「なーにー?そんなに赤くなっちゃて〜」
楽しそうにライフィルは茶化していた。
「ルエも、何かしてあげる?キスとかー!?」
「ば・・・っ!!!馬鹿なこと・・・っ!!!」
顔を真っ赤にしながら精一杯の抗議を見せた。
が、ライフィルに通用するわけがなく、そのあとも茶化されつづける。
「あれがライフィルさんの励まし方なんですね?」
にこりと月夜は言う。
「んー・・・ただ遊んでるだけじゃない?本気で」
ライラックが興味なさげに言うと、月夜は困惑した。
「え?そうなんですか?ああいう風に励ます方法もあるって本で読みましたし・・・」
「そういう方法もあるかもしれないけど、ライフィルねえちゃんにそれはないと思うよー?」
ルエとライフィルの様子を見ながらライラックは言う。
「は、はぁ・・・そうなんですか・・・」
残念、そういった顔付きと飽きれた感じの顔で月夜が呟いた。
その後ろで小さくガイはため息をついた。


それから数日。

蓮弥なしでは旅を続けることが出来ないため、一行は近場でレベル上げをしていた。
「ここの敵は、随分と・・・レベルがないというか・・・」
苦笑。
ルエの足元で必死に攻撃をしかけるスライムが一匹。ぺちぺちという音が聞こえる。が、ルエに効いてる様子はない。
「たびだったばっかってわけじゃないんだけど、あたしたち・・・」
呆れ。
ライフィル目掛けて大きいリスのようなモンスターが飛んできたが軽くかわす。そして、そのモンスターが虚しく地に落ちた音がする。
「あーあ、もっと強いのと闘わなきゃ意味ないよ!」
怒り。
ライラックに群がるスライム達。だがライラックはヨーヨーを振りまわしてはらう。
「でも、そのうち強いものが出てくるかも知れませんし・・・」
偽りの期待。
大きいリスのようなモンスターが必死に突進を続ける。だが月夜に効いている様子はない。
「だいたい、ガイにいちゃんは一人でさっさと修行でちゃうし!!」
別の矛先への怒り。
まだついているスライムにヤツ当たりする。
「ガイがいないとあまり無茶できないものね」
自分達の限界。
足元で必死に攻撃をしかけていたスライムを足で軽くはらう。
「にしたって、弱すぎでしょ!?」
雑魚に対する怒り。
前から突進してきた大きいリスのようなモンスターを軽くロッドで叩いた。
「でも、ちりも積もればやまとなる、ですし・・・」
偽りの期待その2。
突進を続けていたモンスターは、疲れたのか突進の威力が更になくなってきた。
なお、この会話は話しに出てくる雑魚敵を相手にしながらの会話である。
「はああ〜・・・・」
大きなため息。
いや、小さなため息に偶然にも重なった結果だが。
第十五軍は力尽きその場から逃げていった。すると、第一六軍が控えていた。
「でも、随分と数がいるわね・・・」
ふと気付く。
闘っているもの達は少ないが、周りには相当の数のモンスター達がいた。
「そうねー・・・」
気力のない相槌。
第一六軍がきた、そういうこともありしばし疲れていた。精神的に。
「もう飽きたよ」
ため息混じり。
これで何軍目だったか、ライラックは覚えていない。
「でも、これからかもしれませんし・・・」
偽りの期待その3。
同じような攻撃をしかけてくるそのモンスター達に、飽きれてはいた。
そしてまた・・・
「はぁぁ〜・・・」
ため息。

刹那。

どごぉおおおんっっ!!!!

爆発音。
「なな、何!?」
それに驚き闘っていた雑魚敵たちが一気に逃げる。
「い、いってみよう!?」
勇気を出して切り出したのはルエ。
「そうだね・・・いってみようよ!!」
生意気そうな笑顔をみせて、ライラックが同意する。
あとの二人も同意した。


爆発音の方向へ走ること数十秒。
爆発があったと思わしき場所へ到着した。
「これは・・・いったい?」
ぽっかりと空いた空間。黙々とそら高くまで煙が上がっていた。もちろん、周辺にも煙が漂っている。
草や木は数メートル先までなく、ただ土が広がっていた。
そして、それは波を描くようにして。
「爆発があったのはどうやらここみたいね!」
何故かライフィルが楽しそうに言う。
楽しそうに言える状況ではないような気がするのだが。
ごほごご・・・、咳込む声を微かに聞き取った。
咳込む声と思しき方向に目を向けると・・・。煙の向こうからではあるが、人影がゆっくりとこちらに向かってきていた。
風がふき、人影が近づいてきたおかげでその人物がどんな人か、見れる。
その人物は男性で、全体的に茶色い服を身にまとっていた。
「ごほごほ・・・っ!!いきなり爆発するなんてなしだよなぁ」
人物はそういいながらこちらへと相変わらずのスピードで歩を進める。
2メートルまで近づいてきたところで、彼はこちらに気がついた。
「ん?何、君達」
それはこちらのセリフでもある。
「ええーっと、私達は・・・レベル上げ・・・というかなんというか」
ふーん、それだけ言うと彼は一言いう。
「突然爆発するヤツもいるみたいだから、君達気をつけたほうがいいよ?」
すごくびっくりしちゃうよなー、と付け加えた。
「そういうあなたは、何をしていたんですか?」
月夜が聞く。
「うん?あ、俺?俺はね・・・同じ感じ」
ということは、彼もレベル上げ。
「あ、でも君達とはちょっと違うよ?」
にっこりと笑って彼は続ける。
「はっきりと、レベル上げだからね」
そういって一人で笑い出した。
自分以外が笑っていないことに気が付く。
「あれ?面白くなかったかな?」
いや、なんというか・・・・。
「あんまり、おもしろくない」
ライラックがあっさりといった。
「・・・がーん・・・やっぱりか・・・」
妙に凹んでいるようだった。
「ま、いいや。でさ、君達向こうの雑魚と闘ってたりした?」
図星。
「そうだけど・・・」
「え?本当に!?」
本人は冗談でいったつもりだったらしい。
「あ、まさか・・・そんなに強くないとか・・・?」
遠慮気味に聞くとルエが首を振った。
「アレを軽く倒せるほどの力はあります!」
「じゃあ、なんでまた?」
その当たり前の質問に、彼女らは戸惑った。
が、いつまでも言わないのも迷惑だろう。そう思い、口を開く。
「ええっと、そこにしかいないと思ってて・・・」
「要するに、奥に進まなかったわけだな?」
「そういう、ことですね」
馬鹿にされるのではないかと思っていたが。
「なら、この奥にもっと強いのいるぜ?」
そう言って教えてくれた。
「あ・・・ありがとうございます・・・」
素直に礼を言って、その人物とわかれることにした。
「それでは、私達はこれで・・・」
「ああ、じゃあ!自爆するやついるから気をつけて〜」


静かな場所で、一人座っていた。
目を瞑って・・・集中をしている。
少しの物音も感じるほど集中していた。
風のおと、なびく草、虫の気配・・・。
全てを感じていた。
そして・・・自分の中にあるマナを指先に集中させたり、足の方に集中されたり・・・。
いろいろな細かい場所へ順に集中させていく。
そうすることにより、マナ力を高めているのだ。
そしてそれをする人物は、ガイである。
一人静かに、蓮弥を待っていた。



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