――第六章――

ぐるぅぅぅあああぁぁぁぁ!!!
地響きのような鳴き声がその獣の強暴さを示していた。
「きゃぁぁぁぁぁ!!?」
ルエが両腕で前を防ぐ格好を取った。無駄な行為であることは本人にも分かっていたが人間の本能というもので、つい手がそれの格好をする。
「ルエぇ!!!!」
蓮弥の呼び声と同時に刃物のような光が獣の腕を切った。
「え?え?な、何今の?」
横から見ていたライフィルが驚きながら興奮していた。
その声を聞いてルエはゆっくりと手を引いて獣を見る。そこに獣はいなかった。
獣は既に標的をかえ自分の腕を切った張本人へと向かっていた。
かなりのスピードである。
そのスピードに蓮弥は後ずさりする。ライフィルはもともと離れていたのでただ立ち尽くしているだけだった。
標的は
「ガイ!!避けろ!!」
自分の前をかなりのスピードで抜けていったのをみてふと我に帰りそう叫ぶ。
「ザコにビビルわけないだろうが・・・」
そういって獣に何かをしかけた。蓮弥には何をしたのか分からなかったが。
一瞬、止まったように見えた。スローにも見えた。
そして眩しい光に包まれると同時にあの、地響きのような鳴き声が響き渡り、やがて消えた。
光がなくなった時にはもうすでに獣は跡形なく消えていた。
「え・・・?獣の死体。ないの?」
ライフィルが尻餅をついた状態で間の抜けきったこえでそう尋ねた。
「死体などない。俺はあとが残るのが嫌いだ」
冷たい声だった。そして沈黙が走った。
やがて。
「に、にいちゃんすげぇ〜!!」
そういってさっきの男の子が飛び起きてガイの所へいこうとしていた。
が――
「いっ・・・!!」
その場に倒れこんだ。良く見るとかなりの傷を負っていて、こんなので立ち上がれたことすら信じられないほどだった。
一応その子を背負って隣街に向かう事にした。
まだ、森の中盤のはじめ。子供を背負う事になったのだから蓮弥のあしも遅くなる。そして全体の歩く速度も遅くなる。

森の中盤を抜けるとそこにはメルヘンチックな不思議な森が広がっていた。
どうにも居心地が悪いと言う男達に対して可愛いとか言い放つ女達。
森のなかにただよう甘い香りがどうやら居心地の悪さを感じさせているらしい。

辺りが薄暗くなってくると、その森はほのかに光を灯し始めた。
不思議な森だ。

やっと森を抜けた頃にはあたりはもうすっかり、夜の街を感じさせていた。
さっそく宿を探しはじめると、ライフィルが"あっ"と小さく声をもらした。
「どうした、ライフィル?」
ズレ落ちてきた子供を上に上げながら蓮弥が聞いた。
「ほら、そこに病院があるでしょ?その子みてもらえば?」
指差した所にはちいさな病院があった。
みんなも同意し病院にむかうことに。

病院のドアをあけると看護婦らしき人が現われ、蓮弥たちを出向いた。
そして医者に子供を見てもらう事になり、代表として蓮弥が同行する事になった。

「ひどい怪我だね。普通なら全治5ヶ月ってところかな?」
「5ヶ月ですか?」
「うん。でも安心していいよ。僕の病院では特別な薬をつかっているからすぐに直るよ。2日ぐらいかな?」
「ご、5ヶ月がたった2日に!?」
いくらすごい薬を使ったとしてもココまでの短縮はありえない。考えられない。
「うん僕の特別な薬だからね」
そういって看護婦を呼んだ。
そしてなにかを小声で話すと看護婦はその子供をだいて何処かにいっってしまった。
「きみたちは旅人か何かかい?」
子供のケガの様子などを書きながなきいてきた。
「ええ、まぁそんなところです。」
「そう、じゃあ一応ここの薬でも買っていったらどうかな?少し高いけど、それなりの価値はあるしね。完治するのもはやいし。」
「それは、仲間と相談してみます。」
蓮弥にとって未だに価値がどのくらいかわからない。それはまるで世を知らぬ子供のように。

少し待つと大分体の怪我が良くなっている子供を看護婦が抱いて戻ってきた。
「あんまり無理させないでね。死んじゃうよ。」
少し真顔になって蓮弥を見た。
「はい」

待合室に子供を抱えながら戻った。
「結構軽い感じの口調をしたお医者さんだったよ」
「変わりものの医者だが作る薬は世界一ってどっかの誰かがうわさしてたな。」
蓮弥の言葉にガイが答えた。
「そういえば、お医者さんが薬を買わないかって言ってたぜ?」
「いくらなの?高いの?」
ライフィルが軽く聞いた。
すると奥から医者が現れた。
「12000サイル(この世界のお金の単位)だよ。高いかもしれないけどそれなりの価値はある。これだけは自信をもっていえる」
「俺は個人的にほしいがな。こいつ等じゃ買えないんじゃないか?」
「じゃあ君だけでも買ってよ。最近個人的に買ってくれる人いなくて」
「そっから0を一つ取ったら買ってもいいぜ?」
「却下」
あまりにもあっさりした答えだった。
その後、2人は話さなかった。
「あの、薬は。いいです」
「う〜ん、それは残念」
そのあと、なにかを思い出したようで口が少し開いた。
「そうそう、君たちこれから宿探したりするの?」
「ええ、そうです」
待合室のソファーに子供を寝かせ終えたルエが答えた。
「今からじゃ無理だよ。ここに泊まっていったらどうかな?」
「いいんですか?!」
「うん。病室だけど。」
少し沈黙が走った。
「いいんじゃないの?どうせ、お金もないわけだし」
ライフィルがそういうと他のみんなが顔を見合わせた。
「そう、ね。そうよね。お金ないし、それに」
その続きを蓮弥がいった。
「いってくれた本人は悪い人じゃなさそうだしな」
そういって医者の方をみた。

その日は病室で寝る事になった。
個室ではなかったがカーテンでしきれるので特に気にしないで寝れる。
気がした。
「蓮弥〜、幽霊出てきたらどうしよう?」
ライフィルは相変わらず蓮弥をおちょくる。
「はぁ、あのなぁ。いい加減にしろよ」
「そうです!!」
横からの怒鳴り声はもちろんルエである。
「だ〜いじょうぶよ。あたし、蓮弥見てて飽きたし」
「飽きたって・・・。ライフィル、蓮弥はペットじゃないんだからね!」
反論を返したのはルエ。
その2人の相変わらずのやり取りにため息をつき、一言つぶやいた。
「自分の価値っていくつだろう・・・・。」

次の日、目を覚ました蓮弥の隣には昨日の男の子がいた。
自分を、見下ろしていた。
「ああ、おきたのか?」
「兄ちゃん、ここ。どこだよ。僕、こんなところにいるわけにはいかないんだぞ!!」
「って、いわれてもなぁ」
その言い争い、とまではいわないがそれが聞こえたらしく皆が次々と集ってきた。
「おい、いるわけにはいかない。とはどういう意味だ?」
ガイが聞いてきた。
「・・・・・。」
「言いたくないのならさっさといけ。
ここは病院でお前の怪我を治したところだ」
「そんな冷たいこといわなくったって!」
しばし、辺りが静かになった。
そこに、人がいないのかと思うほどの静かさだった。
「僕、どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ。
けど、僕一人じゃ何もできない。
なぁ、手伝ってくれないか?
たのむよ、兄ちゃん」
皆の視線が蓮弥に注がれた。
「いいぜ。けど、全て話してくれよ?」
「うん!」
ルエは笑顔でそれをみて
残りの2人は”やっぱり”という顔で微妙に笑顔で見ていた。


僕、ホントはここの国の人じゃないんだ。
ずっと遠くの。すこし大き目の大陸から、きたんだ。
それも、好意じゃない!
最近の、「あの事件」に、巻きこまれそうになったんだ。

―あの事件、って?

魔術師が行方不明なってる、あの事件。

そこで、知っちゃったんだ。

魔術師達が、どうなっていくのか。

だから、狙われている。
僕は、アレに。狙われているんだ。

―アレってなんなんだ?

正体は良くわからないけど、魔術師をさらっている奴さ。
知ってしまった僕を、殺そうとしてる。
一人じゃ、不安なんだ。
それと、僕の仲間の一人リーブおねぇちゃんが・・・。
やられちゃうかもしれないんだ!!

「リーブって魔術師なのか?」
蓮弥が問う。
「うん、魔術師だよ。とっても心のやさしい」
そういうと、男の子はうつむいて黙ってしまった。
「・・・自己紹介、まだだったよな?
おれは蓮弥。よろしくな」
笑顔で握手を求めた。
「・・・僕、ライラック。蓮弥にいちゃん」
そういってその手を取ろうとした。
だが、蓮弥は寸前の所で手を上にあげライラックの頭を優しく撫でた。
その風景をやさしく見守っていたルエが、自己紹介の続きをはじめた。
「あたしはルエ。蓮弥の大の親友よ♪」
すかさず
「あたしはライフィルね!蓮弥とは、なかなかのところまでいってるのよ〜」
「あれ?ライフィル。飽きたって言ってなかった?」
「昨日はね。でも、また惚れたから良いのよ。
そっとやさしく頭を撫でた蓮弥の姿に、また惚れたのよ」
そんな2人の言い争いを背に連弥はライラックに一言ささやいた。
「嘘、だからな。信じるなよ。俺だって選ぶ権利はあるんだからな」
するとライラックは
「わかってるよ、見ればわかる。それに、蓮弥兄ちゃんにはちょっと不似合いかも」
こそこそと話す二人。
と。
「そこ!何はなしてるの!?」
女2人、声をあわせて言い放った。
「い、いや。なにも!!な、なぁ、ライラック!!」
「え、う、うん!何も言ってないよ!!」
焦る2人の様子は誰が見てもわかる。
「そ、それより、一番カッコ良くて強い兄ちゃんの名前は?」
すると、辺りは静まり、ガイの方をみた。
「ガイ、だ。」
「ガイ兄ちゃんだね!とっても頼りに、一番頼りにしてるんだ!」
胸を弾ませながら言った。
その言葉に、蓮弥は言葉を失った。



旅立ちを向かえることになった。

出口に向かう途中。
蓮弥に見覚えのある女の人が立っていた。
「あ」
ちいさくつぶやいて少し走った。
「カフェさん!!こんなところで何してるんですか?」
「あら。またあったわね。これは運命かしら?」
そういって少し微笑んだ、ように見えた。
「誰?知り合いなの?」
「ああ、武器を買うときに世話になったんだ。カフェ・トランスさん」
「そうなの?あの、蓮弥、相当迷惑かけました?」
その言葉で蓮弥は石で押しつぶされた感じがした。
「あのなぁ、たしかに迷惑かけたけど。相当はないだろ、ルエ?」
「ふふ、でも。有りそうじゃない?」
「そうね。結構迷惑かかったわ」
ズバっとカフェが言う。
「とっころで、ねぇちゃんはどうしてこんなところでつったってんの?」
「少し、調べたいことがあったのよ。でも、もう終ったわ。
次はブエルラって街にいくの」
「俺たちもそこに行ったほうがいいぞ」
その言葉にみんなが振り向いた。
「どうして?」
「あそこに俺の知り合いがいる。そいつにも仲間になってくれるよう頼んだ方が良いと思うぜ」
「なって、くれるの?」
「あいつは俺と違うからな」
ライフィルが間にわって入り
「よ〜し、それじゃ、行こう!!」


次の目的地「ブエルラ」
そこにも、新しい出会いが。。。。



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