+第一章 「出会いとは運命なのだろうか?」+


住宅街。
主婦たちが、この暇な時をお喋りという形でつぶしていた。
そんな中を一人の少女が歩いていた。
少女は制服姿で鞄を持たずに道を行く。
そして、少女はひとつの空き地の前に立ち止まる。
「感じる・・・」
空き地の中を軽く魔力を出して見る。
そこには・・・。
「妖怪・・・?」
一人倒れこむ妖怪の姿があった。
あたりに人がいないことを確認すると、少女はこっそりとペンダントを取り出した。
小さく呪文を唱えると、妖怪はペンダントの中へと消えていく。



「長らく目覚めてないみたいだな」
妖怪の様子を見ながら、少女はつぶやいた。
「寝て力を蓄えてる・・・?」
それならば、と少女はまたも小さく呪文を唱える。
すると妖怪の体を光が包み込む。
光は、やがて妖怪の体の中へと入り込んでいった。
ぴくり。動いた。
最初に、目を開ける。
しばらく、何もすることが出来なかったのか、状況をつかもうとしているのか、黙ったままの時間がすぎる。
「ここは・・・どこだ?」
最初に口に出したのはそのセリフだった。
まあ、無理もないか。
「君のいたところじゃないよ」
「どういうことだ?」
連れてきたことを説明すると、そうか、とだけ答えた。
「君さ、名前は?」
「聞いたほうから答えるのが普通だ」
「あはは。ご尤も!」
「何がおかしい!?」
なんとも楽しい奴だ。
「まあいいや、私は坂崎 架美恵(さかざき かみえ)」
「すごい名前だな」
「うるさい!で、君は?」
「焔障(えんしょう)だ」
深い眠りについていたわりには、記憶がはっきりしてるようで安心した。
長く長く眠るほど強大な力を使ったわけが、気になる。
聞きたい。
だが、そこまでの間柄ではない。きくわけにはいかない。
「なぜあそこで君が寝てたか知らんが、あそこに家はないし・・・しばらくうちにいる?」
妖怪は家にいなくちゃいけないなんてことはない。
だが、ああして空き地にいたということはその家に住んでいたということになる。
家に住んでいた妖怪は、家以外の場所で暮らすことは困難になる場合がある。
ましてや、この焔障という妖怪は長い長い眠りについていたのだから、きっと妖怪社会へはいけない。
ならば、面倒をみてやってもいい。
「家が、ない・・・?」
どうやら、家がなくなっていることを知らないらしい。
「知らないの?いつなくなったか知らんけど、今はねえよ?」
「主がいない家は、壊されるのか・・・?」
先ほどとは違った、悲しげな表情。
「そうだね・・・誰かに買われたんだろうよ」
しばらく、何もない時間が流れることになった。
とても深い思い入れがあることはそれだけでもわかる。
「主とは、親しかったの?」
「というか・・・契約を交わした仲だ」
「契約を?じゃあ、切っても切れない間柄か・・・」
契約、それは人と妖怪が何かの理由に行う。
理由はさまざまだ。
そして、妖怪と契約を交わすということは何かを渡したり、共有したりすることになる。
契約をする理由は、どちらかが相手を支配したいということもあるし、ただ一緒にいたいということもある。
大抵は、支配が多い。
「契約して、何を得た?」
「能力」
「ということは、人間の方は能力持ちか・・・」
能力を持つ人間は必ずある団体へと入ることになっている。
嫌でも・・・。
今はその団体も、何かの事件をきっかけになくなっている。
自由が、今はある。
そして、私はその事件に感謝をする人間の一人である。
「属性は?」
「なんでそんなに知りたがるんだ」
質問攻めで嫌気がさしているようだ。
「ああ、ごめんごめん」
「まあいい。炎だ」
「そっか・・・一般的〜」
にこにこと言う。
能力の中で一番多い属性である。
「一般的とか言うな!!」
「あはは、悪い悪いー」
「笑ってると、説得力ないぞ」
「ん?ああ、確かに」
「確かに、じゃない」
あきれながら架美恵に突っ込みをいれる。
その様子がとても面白い、と架美恵は一人思うのだった。


そして、この日から架美恵と焔障の暮らしがスタートした。


「焔障ー、ご飯だよ、ご飯!」
焔障の寝ている部屋に架美恵が起こしにくる。
「うむ、そうか」
むくりと眠そうに立ち上がるとふらふらと向かう。
「大丈夫か?」
笑いながら問うが、焔障のリアクションはない。

「「いただきます」」
声を揃えて食べるときのご挨拶。
朝食は日本食。
「む・・・・っっ!!」
「ど、どうかした・・・?」
不審な様子についつい問う。
「う。うまい・・・」
「・・・はぁ?」
今までおいしい料理を食べていなかったかのように焔障は言う。
「今まで一緒に暮らして奴は料理が下手だったからな・・・うまく感じる」
「あのねえ、うまく感じるじゃなくて、うまいんだよ」
自信たっぷりにセリフを言うが、焔障は聞いていない。
「おーい、聞いてろよ」
「む?何がだ?」
「わざとらしい・・・」
そういいながらも、楽しそうに架美恵は食事をするのだった。
こうして誰かと食事を共にするのはいったいどれくらいぶりだろうか。
いや、こんなに楽しい食卓は始めてかも知れない。
「なんか、気持ち悪いぞ」
にたにたと笑顔を振りまいてる架美恵に焔障が引く。
「何?悪い?」
「・・・べ、別に・・・」
「ちょっと思いふけってりゃそういうこというわけか、こいつは」
「気持ち悪かったから仕方ない」
「そうずばずばとよく言うなあ」
突っ込まれ続ける。
それでも、やっぱり楽しくて仕方がなかった。
「そういえば、家族はいないのか?」
「ん?いないけど?」
焔障もどれくらい昔かは知らないが、人間だったときがある。
家族がいないことを不思議に思ってもしかたがないか。
「家族は、私におびえて私を捨てた」
「・・・」
焔障は黙って聞いていた。
「私、実は魔術者でさ・・・」
そんな私の力に、大人たちは怯えた。
そして、私のことは黙っていてくれているがその代わりに縁を切られている。
一度だけ、家族のいた場所へ覗きに行ってみたが、既に違う家族が住んでいた。
「もう、会えなくなってるし、会ってはいけない」
だから、一人暮らしをしている。
時々、妖怪の面倒をみたり、能力者や魔術者で捨てられた子供の面倒をみているのだ。
「面倒を見てるわりには、何もいないぞ」
「うん、まあ・・・子供は施設に、妖怪は深くは面倒を見ないから」
能力者、魔術者の団体が捨てられた子供の面倒を見ようと表には知られていないところで施設を作っている。
前に話した団体とは違う。ただ純粋に子供の面倒を見る。
それに、妖怪は家に住むことは珍しい。
大抵は人のいないところにひっそりと住んだりしている。
そんな奴らがまたもとの場所に戻れるように、深くは面倒を見ない。
応急手当をしてやったり、新しいすむ場所を探してやったり、ただそれだけだ。
こうして焔障のような妖怪を見るのは初めてだった。
「そうか・・・そういうことなのか」
「うん・・・まあ、焔障は特別だからね」
「うむ、面倒をたくさん見てやる」
「え?いや、面倒みるのは私でしょう!?」
どうやら自分がそういう風に面倒を見られるなどという状況が嫌いらしい。
まあ、それでもいいか、と架美恵は思った。
楽しいから・・・。



楽しい日々は、これから沢山沢山、やってくるに違いない。
こうして楽しい朝を迎えられたのだから、きっと。



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