・二話・
私は6時に起こされた。
「おはよう、目はさめたかしら?」
戸を開けながらおばさんが私に挨拶をした。
「あ・・・ふぁい・・・おふぁようごじゃいます・・・」
眠さで重くなってる目をこすりながら挨拶を返した。
ちゃんとした挨拶ではなかったが・・・。
「ふふふ、その様子じゃまだ完全ではないようね?」
おばさんは笑い混じりで言った。

朝食の準備は出来ているから、といっておばさんは私を居間へ送り出した。
おばさんはふとんを干してからいくという。
居間に行くとすでにおじさんと元斗、妹の奈々ちゃんがいた。
すっかり遅くなったが、元斗の妹上記では女の子といっていた子は「奈々(なな)」という名前だ。
とても可愛い。
おじさんは私を待っている間、新聞を読んでいた。
私に気がつくとおじさんは挨拶をしながら新聞をテーブルの上に置いた。
おじさんの近くに腰掛けると、読まれていた新聞が目にとまった。
何気なく日付を見て、私は沈黙した。
いや、気絶しそうだった。

昭和30年 7月20日

私が生きているのは平成15年・・・。
これは・・・どういうことなのだろうか・・・。
考えに耽っていた。

私が生きているはずの時は平成15年の7月20日。
年は違えども、月と日にちはあっている・・・。
仮説がひとつ。
漫画や映画など架空の世界でよく用いられた『タイムスリップ』。
・・・科学的には可能だと言うが・・・。実際それをするには装置が必要だったはず・・・。
なぜ?なぜ?
日付はずれることなく、年だけをタイムスリップした。
ということらしい。
すぐにこれを受け止められれば苦労はしない・・・。

"タイムスリップしたとしても戻る方法がない"

そうだ、それを受け止めたところで今の事態が解決したわけじゃない。
戻りたい・・・。
両親に会いたい・・・。
友達に会いたい・・・。

"会って、顔を見て、話をして・・・いつもの生活に戻りたい・・・"

押さえきれない感情がこみ上げて来た。
目頭が熱くなって、目から輝きを持った水――涙が出てきているのがわかった。
私にしてみれば当然の結果。
しかし。

「・・・冬実・・・?どうしたんだ?」
この家族に私の心など届いてはいない。
そう、この家族には迷子としか話していない。
だが、それでも・・・。
「・・・家族に会いたくなったのかな?」
おじさんが気を使って優しく聞いてくれた。
まあ、その点はあたっている。
「あ、はい・・・まあ、そんな感じです」
といって誤魔化した。
すぐにご飯を食べ終わって、部屋に走って戻った。

悲しくて悲しくて。
溢れ出す感情を押さえきれず。ただ出るものをそのまま流しておいた。
永遠に流れるかもしれないこの涙を。
枯れるまでずっとずっと・・・。
声も枯れるまで。感情までもが枯れるまで。


「ふーゆ?ふゆ・・・?」
聞き覚えのある声に起こされた。
だんだん濃くなっていく意識そしてやっと、声をかけて来た人物がわかった。
「・・・真由乃・・・?」
声の主は親友である酉島 真由乃(とりしま まゆの)であった。
真由乃がいるってことは・・・ここは平成15年・・・?
「大丈夫?苦しそうな顔してたわよ?」
教室には明かりが灯されていた。外を見るとあの、さびしげな夕日色は消え、代わりに真っ暗な夜色がいた。
私の安全を確認した真由乃は携帯を取り出し、ボタンをいくつか押して耳に当てた。
しばらくして、相手が電話に出たのか口を少し開いた。
「あ、もしもし?おばさん?冬実ちゃん見つかりましたよ?」
どうやら相手は私の母らしい・・・。
私はその瞬間ある衝動にかられて真由乃から携帯を奪い取った。
「もしもしお母さん!!?」
するといつもの声が返ってきた。
「冬実なの?!」
母は驚いて声を張り上げた。
ほんの少し、沈黙があってから。母はぽつりと漏らした。
「心配したのよ・・・?」
「うん、ごめんね・・・」
静かにそれだけ会話をして、黙った。
私にしてみれば、もう聞けない声だったかも知れない。
だから・・・。
「早く門の前まできなさい」
それだけ告げて母は電話を切った。
私のほほには一滴の涙が流れていた。
真由乃はそっと私を包んだ。
大きく思えた。

門の前まで来ると母と父が待っていた。
まっすぐ母の方へ向かっていって、母の胸に飛び込んだ。
まるで、何日も何日も会えていなかったかのように。

家に帰ると、いつもの匂いと雰囲気に包まれてとてもリラックスした。
お風呂に入って食事をして。
きっと、あの昭和30年のことは夢だったのだ。
そうだ、夢だ。夢に決まってるだからこうしてこういう時が送れているのだから。
そうおもって、眠りに入った。

・・・・・・
ノックの音とセミの鳴き声が聞こえた。 あれ?もう朝・・・? 薄い意識を根性ではっきりさせて起き上がった。 目が腫れぼったい。まるで今まで泣いていて疲れて眠ってしまったかのよう・・・。 ドアを開ける前に鏡を見た。 バックに映る背景に絶句した。 ここは・・・。 元斗がいる時―――昭和30年。 また、戻ってきた。どういうことだろうか・・・? 「なあ、冬実?近くの山に入らないか?すぐだし」 同じスクリーン、鏡に私以外の顔が入ってきた。 「ふぇ!!!?はあ!!?」 数秒の間があって、私は元斗に怒鳴りつけた。 「だーかーらー!!!勝手に入ってくるんじゃなああああい!!」 元斗はため息を大きくついて。 「ノックしても聞いてないのは冬実の所為だろ!!」 今日は何故か反撃を受けた。 まあ、それはいい。 「なーんか、今日の冬実変だからさ。良いもん見せてやろうと思って」 そういって元斗は私の手をひっぱって山中へと案内した。 部屋を出て、階段を降りて玄関を出る。 庭を山方面の方からでる。 すぐに山のふもとに来て登る。 走れば走るほど気分が良くなった。何故かは不明だった。 けど、とにかく楽しい。 私は一言、素直に出た言葉があった。 自然の中を走るのは始めてかもしれない・・・。気持ち良い。 凄く・・・。凄く。 風になった気分とはまさにこの事だろう。 自然と笑みがこぼれていた。 そのことを元斗は横目で見ていた。そして小さくうなずき、満足げに笑った。 その日はすごく笑った。 心からこんなに笑うっていうのはほんとはこういうことなんだ。 このことなんだ。 ・・・違う。 元斗の前だけの特別な笑顔だ・・・。 この昭和30年の時の渦中で一番信頼してるのは元斗。 そういえば。元斗の顔って何処かで見たことある。 どこだろう・・・思い出せないけど・・・でも何処かで・・・。
BACK
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送